未熟な甲虫の呟き

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「黒の黄昏」SS「合鍵」

 一昨日にいただいたイラストを拝見していて、ロイ先生が抱く自分の能力に対する並々ならぬ自負というか満ち溢れる自信といったものを、しみじみと噛みしめていたところ、ふっ、と、幾つかの情景が浮かび上がってきましてな。我慢できずに第十一話三節の冒頭に、ちょっとだけ書き足してしまいました。おかげですっかり寝不足です。はははは。
 一番書きたかった部分には本編のネタバレがむっちゃ含まれているので、その箇所はサイト等で確認していただくとして、当たり障りのない過去話の部分を、SSと言い張って以下に抜き出しておきますね。(大いなるステマ)(そろそろステマの意味間違えていると思う)

 ロイ先生16歳の冬のエピソードです。



 ロイは、今でも、師が研究室の合鍵を渡してくれた時のことを、昨日の出来事のように思い出すことができる。
 毎日、放課後になると、ロイは他のことには目もくれずに、ザラシュの研究室へと通っていた。宮廷魔術師長として宮城の一角に居室を持つザラシュではあったが、周囲の雑音を嫌った彼は、以前に使用していた家を研究室として残し、公務の合間をぬってはそこで研究に打ち込んでいた。ロイは、その研究室でザラシュの手伝いをしながら、学校では望むべくもない、より高度で実践的な指導を受けていたのだ。
 二十年前のその日、いつもどおりに研究室のあるザラシュの旧邸へ向かったロイは、固く閉ざされた門に出迎えられた。
 城の警護や、魔術を使った他都市への通信など、宮廷魔術師の仕事は多岐に亘る上に煩雑だ。その長ともなれば、予期せぬ仕事に時間を取られることも少なくない。ロイの弟子入り以来、ザラシュは極力夕方の決まった時間に研究室を開けるようにしてくれていたが、それでもやはり、ザラシュの到着が遅れることは、ままあった。そして、そんな時は必ず、留守を預かる使用人がロイを門番小屋で待たせてくれたものだった。
 しかし、その日はどうも勝手が違っていた。門の向こうに見える小屋にも、庭にも、人の気配は一切無く、ロイは途方に暮れながら門の脇に立ち尽くした。
 お屋敷の並ぶ閑静な街角に、木枯らしが吹きすさぶ。ロイが、かじかむ両手を互いに擦りあわせていると、向こうの角から姿を現した一台の二輪馬車が、急いた様子でこちらに向かってきて、急制動でロイの前に停車した。
「遅れてしまってすまない。寒かっただろう、すぐに中に入って火を起こそう」
 謝罪の言葉を口にするザラシュに対し、ロイは静かに首を振った。
「大丈夫です」
「大丈夫なわけがあるか。唇の色が紫色になっているぞ」
 いつもの使用人が身内の不幸とやらでいとまをとったため、今この家には誰もいないのだ、と、ザラシュは申し訳なさそうにロイに言った。
「確かに『規範』には、自分のために術を使うな、とあるが、身体を壊してしまっては、人助けのしようもないだろう?」
 暖炉の火に加えて、絶妙に出力を調整された魔術の炎が、冷え切ったロイの身体をゆっくりと温めてくれる。ロイがようやく人心地ついた頃、ザラシュが少しわざとらしい調子で咳払いを一つした。
「これを君に渡しておこうかな」
 そう言ってザラシュが差し出したのは、飾り気のない頑丈そうな鍵だった。
「これは……?」
「この家の合鍵だよ」
 驚きに目を丸くするロイの目の前、ザラシュが穏やかな笑みを浮かべる。
「君なら、いつでも自由に出入りしてくれて構わんよ。私が留守の時でも遠慮なく」
「いや、しかし、今日のことは、私がしっかりと防寒具を用意してさえいれば……」
 躊躇うロイに、ザラシュは悪戯っぽい表情を作ってみせた。
「なんにせよ、私を待つ時間が勿体ないだろう?」
 主人が不在の家で勝手にするのが気が引けるというのなら、書斎の本を読んで待っておればいいだろう。ザラシュにそう言われてしまえば、ロイに断わる理由は何も無かった。
「でも、宜しいのですか?」
「勿論だとも」
 ザラシュは破願すると、ロイの手に鍵を握らせた。
「これは、私と君との絆だよ。大切にしておくれ――」
 
 


 こんなに控えめでカワイイ(?)少年が、あーんな大人になるわけですなw

 サイトや小説家になろうの他、BCCKSの電子書籍版も修正しておきました。
 実は、先日の製本作業に際して、幾つかの節に設定していたアバンタイトルを撤廃、本文を再構成しておりましてね。以前ダウンロードなさった方も、是非この機会に、新しいファイルと差し替えてくだされば幸いです。
 

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