未熟な甲虫の呟き

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「黒の黄昏」SS「つうこんのいちげき」


「いやあ、隊長と副隊長が、まあ、なんつーか、仲直り? したのは、俺らにとっても、とってもありがたいわけなんだけどさ……」
 奥歯に物が挟まりまくった口調で、ガーランはがしがしと頭を掻き毟った。
 ここは、ルドス警備隊詰所の二階、隊長の執務室。ノックの音からして気の進まない様子で、ガーランはエセルの机の前に立った。他愛もない世間話でお茶を濁すこと寸刻、「だから何の用だ」とのエセルの容赦ない問いかけに、半分やけっぱちで本題に突入したところだった。
「……ありがたいわけなんだけど、今度はさ、この部屋に用があってやってきたとして、その時にだな、アンタらが……、いや、なんつーか、ほら、うっかりアンタらの邪魔をしてしまわないか、とかさ、色々と悩みは尽きないわけよ」
 なんで俺が隊長にこんなこと言わなければならないんだ、と、理不尽な思いを噛み締めるガーランの脳裏に、ついさっき談話室で同僚達と交わされた会話が甦ってきた。
 
 
「確かに、これで、あの二人の顔色をびくびくしながら窺わなくっても良くなったわけだけどよ」
「今度は逆の意味で、見ていられない、って感じがしないか?」
 今更何を言ってるんだ、両片思いが両思いに変わっただけで、以前と全く同じじゃねえか、と心の中で溜め息をつきながら、ガーランは反論を試みた。
「そうか? 隊長はともかく、あの副隊長が、人前でベタベタするようには思えねえが」
「まあ、そりゃそうなんだけどさ、でも、執務室に用があっても、やっぱさ、行くの、躊躇うよな」
「だって、二人きりだろ、あの部屋で」
 ケツの青いガキじゃあるまいし、意識しすぎなんだよお前ら。そう言いたいところを、ガーランはぐっとこらえた。
「だーかーらー、彼女に限って、ないない、ないって」
「でも、隊長のほうは間違いなく調子に乗るだろ?」
 そこで思わず言葉に詰まるガーランを、同僚達がすがるような目で取り囲んだ。
「だからさ、頼むよ」
「……え?」
「なあ、ガーラン。あの二人と長時間一緒にいて平然としてられるのは、俺達の中じゃお前ぐらいなもんだ。だから……」
 
 
「――隊長にもう一人ぐらい補佐をつけて、そいつもここに詰めてりゃ、ちょっとは密閉感てか閉塞感みたいなものが薄れるかなー、と、だな……」
 どう考えても無理がありすぎる提案を、ガーランはなんとか言いきった。あとは野となれ山となれ。伝令の仕事はここまでだ、と、天井を仰ぐ。
 ふむ、と考え込むそぶりを見せたエセルは、鷹揚な態度で椅子に背を預けた。
「そうは言うが、ガーラン」
 と、にやりと底意地の悪そうな笑みを浮かべながら、「すると今度は、三人の邪魔をするかもしれない、と、悩むことになるのではないか?」
 その瞬間、ガーランの思考は真っ白になった。顔面にこぶしを喰らったかのように、目の奥で火花が弾ける。
 エセルが、にやにや笑いを収めて、怪訝そうに眉をひそめた。
「どうした、ガーラン、お前らしくない。うぶな生娘でもあるまいし、何を赤くなっている」
 と、背後の扉にノックの音が響いた。
 鈴の音もかくやな「入ります」の声を聞き、ガーランが我に返る。
「そ、そうだな、うん、も、もう一度、あいつらの話を、聞いてくるわ」
 扉の開く音に続けて、軽やかな靴音。
「ガーラン、ここにいたのですか」
「お、おうよ」
 副隊長に背を向けたまま、ガーランはじりじりと扉のほうへとあとずさる。そうして、彼女の傍らを通り過ぎるや否や、脱兎のごとく執務室を飛び出していったのだった……。
 
 


アホなネタを思いついてしまって、我慢できずに書いてしまいました。すみませんすみません。
大体、「黒の黄昏」第三部始まってすぐのあたりです。
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