※ワンライとは、制限時間一時間でお題に沿った作品を書き、決められたタグで投稿するX《ついったー》上でのイベントです。
「寒くないのか」
早朝、いつもの服装で現れた鬼術……魔術師達四名の姿を見て、少女は目を丸くした。
ここは〈水の掌〉。「掌」という言葉は、神へ祈りを捧げる人々の集団そのものを指すこともあるが、この場所は会所、いわゆる礼拝堂である。北の帝国からわざわざ祈術を学びにやってきた四人の留学生達は、寝泊りしている町長の別宅から、こうやってこれから毎日、〈水の掌〉を始めとする各掌をまわって祈り手の話を聞いたり手伝いをしたりするということだった。少女――サヴァはまだ十三歳だが、帝国出身の父を持ち彼らの言葉がわかることから、その指導役に任命されたというわけだ。
今朝はこの秋一番の冷え込みで、サヴァは寝床を出るのに、椰子の実を叩き割るほどの勢いを必要とした。夏場は日よけに使った方布を首に巻き、上着の下に胴衣も着込んできたというのに、色白でひょろりとした日陰の豆の芽のようなこの連中は、上着も無しで平然とした顔で立っている。
「大丈夫!」と一番体格のましな茶髪緑眼が胸を張った。続けて帝国語で『ちょっと寒いかなーとは思うけど、十一月でこれぐらいだったら、冬も楽勝っすよ、ねえ、サヴァちゃん』と笑う。
「サヴァ『さん』」
その横から砂色の髪の青年が、やや低い声で訂正を入れる。彼――ラーノは先遣隊として以前一箇月ほどこの町に滞在していたため、サヴァは彼のことを比較的よく知っているが、こんな声を聞いたのは初めてで少し驚いた。
「言葉遣いに気をつけるよう、言ったでしょう」
ラーノは同じ言葉を帝国語でも繰り返す。クナーン語の時よりも丁寧さが心持ちそぎ落とされた言い回しを聞き、サヴァはもう一度目をしばたたかせた。
『そう言うけど、こんな可愛らしい子相手に、そんな堅苦しいのってさぁ』
『君は、教授相手にもそういう話し方をするのかい?』
『や、まさか』
『教えを乞う相手、というのは同じだよ』
『……わかったよ、団長殿』
『あと、できる範囲でいいから、クナーン語を使うよう心がけよう』
はーい、とぞんざいな*返事をした茶髪が、ラーノが背を向けた途端にこれ見よがしに肩をすくめている。なんだあいつは、とサヴァは思わず眉間に皺を寄せた。
「今朝は急に冷え込んだな、とは思いますが、気温に対して風がぬるいですから、ごれぐらいなら大丈夫ですね。日が高くなれば、温かくなるでしょうし」
ラーノが律儀にも先ほどの気候の話題を引き取った。
「暑くなったら、脱げばいいんだ」
「それはそうですね」
再会して四日、ようやく見られたラーノの笑顔に、サヴァもつられて口角を上げる。
「夏と違って雲が出ることも多いから、そういう日は昼間になってもあまり温かくはならないぞ」
「冬場に雨が降るんですよね」
「ラーノが来る前の日もちょっと降ったぞ」
彼は、祈術のこと以外に、こういう日常的で些細な話を聞くのも好きなのだ。サヴァはすこし得意な気分で、右手を空に差し伸べると、意識を指の先から空へと広げた。大いなる恵みへの感謝と、大地に満ちる命への思いとを、いにしえのことばで縒り合わせて風に放つ。
サヴァが目をあけると、ラーノが眩しいものでも見たかのように目を細めていた。他の三人の魔術師も、不思議そうな表情で辺りをきょろきょろと見まわしている。
「午後にでもまた雨が通りそうだ」
そうサヴァが言った途端、ラーノが目の色を変えて身を乗り出してきた。三箇月も経ったのに、こういうところは全然変わらない。
「ちょっと待ってください! 今の祝詞はどういうものですか? 記録していいですか?」
「帳面をつけるなら、祈りの部屋の机を使ったらいい。でも、そんな大層なものじゃないぞ。雲がどこかにいるかな、と探っただけだ」
「雲……つまり、水の気配ですか」
「うん。それで、海のほう、そう遠くないところに気配がしたから」
「なるほど」
サヴァの言葉を受けて、ラーノが背後を見やった。掌の前に開けた水の広場を、坂を下った先、紺碧の海を。
「そうか。だから風がぬるいんですね……」
と、そこでさっきの茶髪が、得意げな顔でラーノのあとを受けて口を開いた。
「帝都なら、風、木が枯れるます」
「風で木が!?」
サヴァは思わず右方を振り向いた。入り組んだ小路の遠く、家々の屋根の向こうにあるナツメヤシの並木に目をやる。
帝国は森と鉄の国と聞いているが、風で枯れてしまうほどその木々は弱いのか。ああ、でも雨がよく降るというから、胡瓜のように一年で伸びて茂るのだろうか。いやそれとも、そもそもあまり風が吹かないとか……。
「木は枯れません」
「え?」
目を戻せば、ラーノがなにやら口元に力が入った顔をしていた。
「帝国には冬に葉が落ちる木があるんです。春にまた葉の芽が出るまでは、そういった木々は枝だけとなって枯れ木のように見えるため、秋が深まって吹く冷たい風を『木枯らし』と呼ぶんです」
『ほら、やっぱりサヴァちゃん可愛いって! な! って、いたいたいたいたい』
なれなれしくラーノの脇腹を肘で突っついた茶髪が、そのまま腕をねじり上げられて悲鳴を上げる。
「サヴァ『さん』だ!」
『すまんて、ラーノ、冗談だって!』
やはりこれは面倒な仕事になりそうだ、とサヴァはそっと溜め息を吐き出した。
途中に入り込む「*」マークまでが一時間で書けたところです。続きを書く際も、その部分には一切手を加えていません。
使用したお題は「木枯らし」。
ゲゲゲの謎すっっごく面白かった。面白くて、一緒に観に行った家族と帰宅してからも感想語りまくってた。感想戦に夢中になりすぎて、ふどらいのことすっかり頭から抜けてしまってたんだけど、お題は既に決めててネタもふんわり考えてたから、今から一時間頑張ってみようと思う。なおオチは未定。
posted at 2023/11/19 10:53:38
posted at 2023/11/19 10:53:38
あ、この書き方だと無理だ。全消しして台詞中心の寸劇に変える。あと21分。
posted at 2023/11/19 11:35:15
posted at 2023/11/19 11:35:15
865文字……。とりあえずここに印つけといて、ネタを始末するところまで書いてからブログにアップしますわ……。
posted at 2023/11/19 11:59:34
posted at 2023/11/19 11:59:34
映画に出かけて以降、X《ついったー》を全然開いてなかったのが悪かったんですよね。気がついた時には開催時間を過ぎてしまっていたので、もうこのままタイムラインを見ずに寝て、朝に一人後夜祭決め込もう、と相成りました。ていうか、朝でも後夜祭って言っていいのだろうか。
そんなわけで、全三回の #ふどらい 、11/26の次回がラストです。
次こそは、きちんと参加したいと思います……。
風土記系ワンライ企画 #ふどらい
— イセカイフドキ (@fudokift) November 18, 2023
次回がいよいよ最終日!
2023/11/26(日)朝7時お題発表、朝10時~11時執筆
参加者資格:#風土記系FT が好きな方
ジャンル:全年齢向け創作小説
読むだけ、お題だけの参加も歓迎、公開場所不問、交流は任意の気楽な書き散らかし企画です
お気軽にご参加ください! pic.twitter.com/Abi1ij7og0
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