未熟な甲虫の呟き

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ネズミ退治

 11/10に行われたイセカイフドキさんの創作小説ワンライ企画「風土記系ワンライ」1日目の参加作です。
 ※ワンライとは、制限時間一時間でお題に沿った作品を書き、決められたタグで投稿するX《ついったー》上でのイベントです。




 
 幾分寂れた町だった。目抜き通りに建つ宿屋にもかかわらず、客は彼らのほかにはいなかった。彼ら――失踪した恩師を探して旅をする少女と、その護衛の剣士と魔術師の三人組。
 灯りの少ない薄暗い食堂、汚れが染み込んだ食卓で三人が食事を待っていると、奥から乱暴な足音が響いてきた。

 三人の傍にやってきたのは、好戦的な目をした男だった。彼は剣士を値踏みするようにねめつけると、「裏の廃墟に住み着いたネズミを退治してくれないか」と言った。
 男の後ろから宿の主人が、「私からもお願いします。あいつらのせいで、この町は滅茶苦茶になっちまった」と唇を噛む。

「ネズミ……って?」
 少女が怪訝そうに眉をひそめた。
「心配しなくてもちびっ子には頼まねえよ、危ないからな。ぼろい廃墟だから魔術師の兄さんもやめておいたほうがいいだろ。剣士の兄ちゃん、あんたが頼りなんだ。俺達と一緒に、あの忌々しい奴らをやっつけてくれねえか」

 報酬の少なさに眉を跳ね上げる魔術師を手で制し、剣士は静かに頷いた。あくまでも手伝いとなると、そこまで高額は望めないだろう。それに、宿代も食事代も男が払ってくれるとのことだ。
「早速で悪いが、決行は今夜だ。あとで迎えにくる」

 *

 約束どおり男は夜更けにやってきた。「頼んだぞ」と言う宿の主人に「任せとけお頭」と胸を張り、男は剣士を連れて宿を出ていった。
 不安げに窓の外を見やった少女は月明かりの中に、剣士達と合流する数人の人影を認めた。その全員が覆面をしていることに気づいて、彼女は息を呑んだ。

「やっぱり『ネズミ』って本当のネズミじゃないんじゃ…」
 傍に来た魔術師に、少女が囁く。魔術師もまた眉間に皺を寄せた。
「それどころか僕は、彼らこそが町を無茶苦茶にした賊そのものである可能性を考えている。盗人、密告屋、内通者……ネズミがどれを指すのかはわからないけど」

「助けに行かないと」
「オーリなら自分でなんとかするだろうさ」
 魔術師はそう言うと、ちらりと背後を、宿の主人がいるほうを窺った。
「それよりも、ウネン、君は部屋に戻って中から戸締りをするんだ」
「モウルは?」
「僕はここで高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処するよ」


 ――結論から言うと、朝まで何も起こらなかった。
 夜が明けて、剣士が昨晩の男とともに帰ってきた。二人とも全身埃まみれで、目元だけが薄っすらと汚れている。覆面の名残だ。
「本当にネズミ退治だったの?」
 少女の声に男が顔をしかめる。
「ハァ? 俺ぁ確かにそう言っただろ?」

「なあ?」と男に問われて剣士も「ああ」と頷いた。
「この夏に野っ原の巣穴をあらかた潰せたから油断してしまってよ。まさかお役人のお屋敷跡に潜り込んでるとはな。アホほど殖えやがったところで芋だのなんだの食い荒らし始めやがってよ。お蔭で人間様は冬支度どころじゃなくなってさ」

「でも、あんな夜中に?」と魔術師。
「一度目の退治以来、昼間は出てこなくなってしまったんだよ」
「じゃあ、あの覆面は?」と、これは少女。
「毛だの乾いた糞だの吸い込みたかぁねえだろ?」
 なるほど、と頷く少女の横で、魔術師がまだ腑に落ちない様子でしかめっ面をしている。

「でも、それならどうして僕にも手伝いを頼まなかったのさ? 人間相手の乱戦ならともかく、ネズミ退治なら入り組んだ場所でも僕の術はかなり役に立ったはずだ」
「あー、兄さんが風使いだってことはお頭に聞いてたけどよ、あの場所は綺麗好きには無理だと思ってよ」
「綺麗好き?」

「だって兄さん、そこの食卓の汚れ見て『うわぁ』って顔してただろ」
 不覚、とばかりに唇を引き結ぶ魔術師に、宿の主人が「すみませんねえ」と頭を下げた。「いかんせん古い調度で、拭いてもとれないんですわ」
「なにせお頭のじいさんの代からあるからな」
 男が得意げに胸を張る。

 魔術師は「最後にもう一つだけ」と息を吐いた。
「なんで君はご主人のことを『お頭』って呼んでるの?」
「俺、ここの従業員なんだよ」
「いや、だから、なに、ここの方言?」
「『旦那』よりもなんか格好いいだろ」
 肩を落とす魔術師の横で、そういうオチかー、と少女が苦笑した。
 
 



 1時間で書けたのは途中の「*」までで、以降はあとから追加した分です。
 使用したお題は「冬じたく」。

 ワンライ初挑戦ゆえ勝手がわからず、公開にかかる手間を惜しんでX《ついったー》に直接投稿したら、1ポストごとの文字数調節にやたら苦労する羽目になりました。まさに本末転倒。普通にテキストをベタ打ちしたら、もう少したくさん書けたはず。
(投稿作業の時間はカウントしなくていいということなので、次の機会は執筆にきっちり1時間かけて、ブログに投稿→X《ついったー》に告知、で行こうと思います)

 そんなわけで今作は、「通し番号や企画ハッシュタグを入れた上で、140字以内にキリよく収める」という縛りが生んだ文章なので、そのままの体裁でまとめることにしました。途中やたら空行が挿入されているのは、そういう理由です。

冬支度→冬の間の食糧確保とか→害獣との生き残りをかけた仁義なき戦い→大型獣は扱いにくいから小さいの→ネズミとか→ネズミって意味深かも→てか、「町はずれに住み着いたネズミを退治」って聞きようによってはとても物騒→そうだ、これでアンジャッシュできるのでは?

という一発ネタでした!
posted at 2023/11/10 23:33:28
 「ネズミを退治」じゃなくて「ネズミを始末」って書けばもっと物騒になった、ということにあとから気づきました……残念。

 一夜明けて読み返した時に抱いた感想をラクガキしたので、ここに貼りつけておきますね。

 あの台詞を聞いていたのがウネンだけで本当によかったね……。


 今回の「風土記系ワンライ」 #ふどらい は全三回。次回は 11/18(土)なので、時間がある方は参加してみませんか。
 風土記系FTが好きな人なら誰でもOK、一次創作の全年齢向け小説であればジャンル自由、なんなら風土記系FTでなくても構わないそうです。お題提供のみの参加も可能なので、皆さん、是非。
 以下に主催さんのポストを貼っておきますので、詳しいことはそちらをご覧ください。



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