2023年 11月の記事
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綿野さん作「シダル 信念の勇者と親愛なる偏奇な仲間達」(
カクヨム/
なろう)と、我が「九十九の黎明」(
カクヨム/
なろう)のコラボイラスト再び!! →前回は
こちら 今回はモウルと魔法使いという「警戒組」を描いてくださいました。
片やニコニコよそゆき笑顔で、片やにゃんこみたいに(可愛い)「しゃー」って(可愛い)互いに警戒しています。

モウルはよく喋るし社交的ではあるんですが、人と深く関わることに慣れてなくて、あの愛想の良さもある種の予防線を張っているようなところがあります。踏み込んで拒絶されるのが怖いし、踏み込まれるのが怖い、その結果のよそゆき笑顔ですよ。警戒心バシバシですよ。この絵の見事な解像度に全わたしが大喜びしています!!
一方、魔法使いは妖精とも呼ばれるエルフです。彼らは基本的に人間社会とは離れたところで生きていて、人と会話するようなことはまず滅多にないとのこと。神託で〈剣の仲間〉に選ばれたこの妖精さんは勇者達にはとても懐いているけれど、「人間、嫌い」なんて彼らにこぼしちゃうぐらいには人間と相対するのが苦手なんです。
ちなみに、魔法使いが仲間達をどう認識しているかを小説本文(第二部第一章)から引用すると――
勇者:狼みたい/毛の硬い、狼。ふさふさしていて、駆け回っていて……でも強い/犬の仲間だから……とても、素直
吟遊詩人:フェアリみたいだし、犬みたい……金色で、巻き毛の犬
神官:どんぐりの、精霊
賢者:森の暗いところに、棲む生きもの
――あまり人間と思ってなかった。
そんな魔法使いがモウルを前にしたら、そりゃあ「しゃー」ってなりますよ!(可愛い)
このイラストをいただいたあと、綿野さんから更に楽しいコメントをいただいたので、許可を得て引用しますね。
それに対する私のリプライ。
こうなると、ちょっと図解?してみたくなるじゃないですか。

たーのしーい!
綿野さん、素敵なイラストと山盛りの幸せをありがとうございました!!!
本日11/26に行われた
イセカイフドキさんの創作小説ワンライ企画「風土記系ワンライ」
3日目参加作です。
開催時間中に書けたところまで一旦投稿して、あとから少し加筆しました。どこをどう加筆したかは、掌編本文のあとに記しています。
※ワンライとは、制限時間一時間でお題に沿った作品を書き、決められたタグで投稿するX《ついったー》上でのイベントです。
伝統を重んじる人間や地位を剥奪された者達が聞けば烈火のごとく怒るであろうが、私は、帝国がこの地を征服したことを悪しからず思っている。一つは、子供達に読み書き計算といった基礎教育を施すことが義務づけられたこと。もう一つは、不安定かつ無軌道に膨張するばかりだった私塾を一箇所にまとめ、系統立った学問として成り立たせる道筋ができたことだ。
帝国以前は領主の城として使われていた建物の、古い石積みの壁を眺めながら、私は未来に思いを馳せた。おそらく後世の人間によって、今この時は歴史の新たな章の始まりと記されるであろう。歴史学者としては、その最初の一ページを、いかに有意義に……
「ちょっと、聞いてよ、ユエト!」
私の物思いは、甲高い叫び声で中断された。もう二十歳を過ぎているいい年だというのに、子供のような言動が目立つ学生、ユール・サラナンだ。教員室兼研究室に飛び込んできた彼は、先刻から黙々と文献を読み込んでいたもう一人の学生のもとへ真っ直ぐにやってくると、大きな音を立てて机の天板に手のひらを打ちつけた。
「政治学部のナントカって奴が、過去の納税方法について色々質問してきたから、ざっと教えた上で参考図書までまとめてやったのに、間違えてるんだよ!」
ちらりと学友を見やったユエト・サガフィは、視線だけで相槌を打つと、再び作業に戻る。勤勉な上に何事にも動じない、実に優秀な学生だ。
「人頭税を導入したのはアルサス領! だから隣のケネル領に吸収されるようなことになったんだって! さてはあいつ、一次資料に直接当たらないで僕の書き付けを適当に切り貼りしやがったな!」
一方、対照的にこぶしを振り回しながら口角泡を飛ばすユールだが、彼もこう見えて、とても優秀な学生なのだ……。時々信じられない思いに駆られてしまうが。
「だいたいだよ、あれこれ訊いてきたんだから、発表前に僕に『こんな感じになりました』ぐらいは報告に来たっていいと思うんだよ。んじゃ、こことこことこことここが間違ってて、ここからここまでの記述が変だ、って指摘することもできたのに!」
そこまで間違いが多いとなれば、まあ、彼の怒りはわからないでもないが……。
「そもそも質問に来た時からあいつは間違ってたんだよ。歴史ってのは、ルドスの歴史、とかヌルジの歴史、みたいにそれぞれが独立した紐みたいに存在しているわけではない、って言ったら、『それだとまとめにくいから、簡潔に頼む』って言うだろ。余計にややこしくなって混乱するよ、って忠告したら、『わかってるって。紐と紐で布地を編むようなものだろ』なんて、上手いこと言ってやった、みたいな顔していたけど、出来上がった布は穴だらけだし、それに、たった二本だけの紐を使って歴史を語れるわけがないんだよ!」
ああ、まったくもってそのとおりだ。だからこそ歴史を学ぶのは面白いのだ。いや、他の学問にしても同様だろう。我々ヒトという存在自体が、複雑怪奇極まりないのだから。一を聞いて解ったような気になるようでは、この先が思いやられる。
とは言え、いくらユールの意見が納得のいくものだとしても、学友の学びの邪魔をしてよいわけではない。私はトントンと指で机を叩いてから、依然滔々と語り続けている彼に話しかけた。
「ユール、君の考えは充分にわかったから、もうこれ以上ユエトに当たらないでやってくれ」
途端にユールがピタリと口をつぐんだ。珍しく素直に私の話を聞いてくれたのかと思いきや、しばしの沈黙を経て、なにやら思案深げに顎に手をやる。
「――いや、待てよ、織物だったら、沢山の縦糸を各々の地域に当てることができるな……?」
紐と布のたとえ話がまだ続いていたのか。
「その場合、横糸は何だ」
ユエトまでもが話題に加わってくる。しかしまあ、その気持ちはわかるとも。私も今ちょうど、横糸は何かな、と思ったところだ。
「んーと、時間の流れ……? いやでも、ちょっとそれには当たらないかな……」
私はそっと溜め息を吐き出した。当初の望みどおりユールが矛を収め、部屋の中が落ち着きを取り戻したからには、これ以上苦言を呈するわけにもいくまいて。
気を取り直した私は、愛弟子二人にあらためて正面から向き合った。今しがた考えついたばかりの譬えを、いそいそと披露する。
「ならば、組紐はどうだね」
二人の表情がパアッと明るくなるのを見て、私は満足感とともに大きく頷いた。
ふどらい企画三日目にして、ようやくワンライっぽいワンライができたような気がします。
と言っても制限時間内に完成させることはできず、最後のほうが台詞の羅列になってしまったので、あとから加筆修正していますが。
ちなみに加筆前の文章は以下のとおり。

オチに至る部分が全然足りてない。頑張ったんだけどなあ、一時間ではこれが限界でしたね……。
使用したお題は「当たらない」。
色んなバリエーションの「当たらない」を盛り込むつもりでしたが、結局3つしか入れることができませんでした。
1日目や2日目の経験を踏まえて、今回はまず台詞だけをオチまで書き出しました。
地の文は、視点が明確な一人称を選択。描写を絞ることができる代わりに、油断すると人物説明がとってつけたようになってしまいがちなところを、ユールというキャラの勢いのお蔭で、なんかこう上手いこと誤魔化せたように思えます……誤魔化せてたらいいなあ……。
このたび初めてワンライに挑戦しましたが、一時間って本当にアッという間に過ぎてしまいますね。
この短い時間にきっちりと作品に仕上げている方々には、ただひたすら尊敬するばかりです……爪の垢ちょっと分けて……。
大勢でわいわいにぎやかに時間やお題を共有して書くの、お祭りみたいでとても楽しかったです!
素敵な企画をありがとうございました!!
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11/18に行われた
イセカイフドキさんの創作小説ワンライ企画「風土記系ワンライ」
2日目に参加……しようと思ってネタをふんわり考えていたけどうっかり参加し損ねたから、一夜明けて独りでワッショイした掌編です。
※ワンライとは、制限時間一時間でお題に沿った作品を書き、決められたタグで投稿するX《ついったー》上でのイベントです。
「寒くないのか」
早朝、いつもの服装で現れた鬼術……魔術師達四名の姿を見て、少女は目を丸くした。
ここは〈水の掌〉。「掌」という言葉は、神へ祈りを捧げる人々の集団そのものを指すこともあるが、この場所は会所、いわゆる礼拝堂である。北の帝国からわざわざ祈術を学びにやってきた四人の留学生達は、寝泊りしている町長の別宅から、こうやってこれから毎日、〈水の掌〉を始めとする各掌をまわって祈り手の話を聞いたり手伝いをしたりするということだった。少女――サヴァはまだ十三歳だが、帝国出身の父を持ち彼らの言葉がわかることから、その指導役に任命されたというわけだ。
今朝はこの秋一番の冷え込みで、サヴァは寝床を出るのに、椰子の実を叩き割るほどの勢いを必要とした。夏場は日よけに使った方布を首に巻き、上着の下に胴衣も着込んできたというのに、色白でひょろりとした日陰の豆の芽のようなこの連中は、上着も無しで平然とした顔で立っている。
「大丈夫!」と一番体格のましな茶髪緑眼が胸を張った。続けて帝国語で『ちょっと寒いかなーとは思うけど、十一月でこれぐらいだったら、冬も楽勝っすよ、ねえ、サヴァちゃん』と笑う。
「サヴァ『さん』」
その横から砂色の髪の青年が、やや低い声で訂正を入れる。彼――ラーノは先遣隊として以前一箇月ほどこの町に滞在していたため、サヴァは彼のことを比較的よく知っているが、こんな声を聞いたのは初めてで少し驚いた。
「言葉遣いに気をつけるよう、言ったでしょう」
ラーノは同じ言葉を帝国語でも繰り返す。クナーン語の時よりも丁寧さが心持ちそぎ落とされた言い回しを聞き、サヴァはもう一度目をしばたたかせた。
『そう言うけど、こんな可愛らしい子相手に、そんな堅苦しいのってさぁ』
『君は、教授相手にもそういう話し方をするのかい?』
『や、まさか』
『教えを乞う相手、というのは同じだよ』
『……わかったよ、団長殿』
『あと、できる範囲でいいから、クナーン語を使うよう心がけよう』
はーい、とぞんざいな*返事をした茶髪が、ラーノが背を向けた途端にこれ見よがしに肩をすくめている。なんだあいつは、とサヴァは思わず眉間に皺を寄せた。
「今朝は急に冷え込んだな、とは思いますが、気温に対して風がぬるいですから、ごれぐらいなら大丈夫ですね。日が高くなれば、温かくなるでしょうし」
ラーノが律儀にも先ほどの気候の話題を引き取った。
「暑くなったら、脱げばいいんだ」
「それはそうですね」
再会して四日、ようやく見られたラーノの笑顔に、サヴァもつられて口角を上げる。
「夏と違って雲が出ることも多いから、そういう日は昼間になってもあまり温かくはならないぞ」
「冬場に雨が降るんですよね」
「ラーノが来る前の日もちょっと降ったぞ」
彼は、祈術のこと以外に、こういう日常的で些細な話を聞くのも好きなのだ。サヴァはすこし得意な気分で、右手を空に差し伸べると、意識を指の先から空へと広げた。大いなる恵みへの感謝と、大地に満ちる命への思いとを、いにしえのことばで縒り合わせて風に放つ。
サヴァが目をあけると、ラーノが眩しいものでも見たかのように目を細めていた。他の三人の魔術師も、不思議そうな表情で辺りをきょろきょろと見まわしている。
「午後にでもまた雨が通りそうだ」
そうサヴァが言った途端、ラーノが目の色を変えて身を乗り出してきた。三箇月も経ったのに、こういうところは全然変わらない。
「ちょっと待ってください! 今の祝詞はどういうものですか? 記録していいですか?」
「帳面をつけるなら、祈りの部屋の机を使ったらいい。でも、そんな大層なものじゃないぞ。雲がどこかにいるかな、と探っただけだ」
「雲……つまり、水の気配ですか」
「うん。それで、海のほう、そう遠くないところに気配がしたから」
「なるほど」
サヴァの言葉を受けて、ラーノが背後を見やった。掌の前に開けた水の広場を、坂を下った先、紺碧の海を。
「そうか。だから風がぬるいんですね……」
と、そこでさっきの茶髪が、得意げな顔でラーノのあとを受けて口を開いた。
「帝都なら、風、木が枯れるます」
「風で木が!?」
サヴァは思わず右方を振り向いた。入り組んだ小路の遠く、家々の屋根の向こうにあるナツメヤシの並木に目をやる。
帝国は森と鉄の国と聞いているが、風で枯れてしまうほどその木々は弱いのか。ああ、でも雨がよく降るというから、胡瓜のように一年で伸びて茂るのだろうか。いやそれとも、そもそもあまり風が吹かないとか……。
「木は枯れません」
「え?」
目を戻せば、ラーノがなにやら口元に力が入った顔をしていた。
「帝国には冬に葉が落ちる木があるんです。春にまた葉の芽が出るまでは、そういった木々は枝だけとなって枯れ木のように見えるため、秋が深まって吹く冷たい風を『木枯らし』と呼ぶんです」
『ほら、やっぱりサヴァちゃん可愛いって! な! って、いたいたいたいたい』
なれなれしくラーノの脇腹を肘で突っついた茶髪が、そのまま腕をねじり上げられて悲鳴を上げる。
「サヴァ『さん』だ!」
『すまんて、ラーノ、冗談だって!』
やはりこれは面倒な仕事になりそうだ、とサヴァはそっと溜め息を吐き出した。
途中に入り込む「*」マークまでが一時間で書けたところです。続きを書く際も、その部分には一切手を加えていません。
使用したお題は「木枯らし」。
映画に出かけて以降、X《ついったー》を全然開いてなかったのが悪かったんですよね。気がついた時には開催時間を過ぎてしまっていたので、もうこのままタイムラインを見ずに寝て、朝に一人後夜祭決め込もう、と相成りました。ていうか、朝でも後夜祭って言っていいのだろうか。
そんなわけで、全三回の #ふどらい 、11/26の次回がラストです。
次こそは、きちんと参加したいと思います……。
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夏にX《ついったー》で
#大切な人が眠り続ける呪いにかかりそれを解く条件が人を100人ころすことだとしたらうちの子はどうするというタグで遊んだ時の記録をまとめておきます。
オーリの例外事項について、「モウルのことを特別大切に思っているからではなく、モウルなら気にしないだろうと思っているからですね(要約)」とのリプライを受けて。
更に、「ウネン相手にどうしても実行しなければならない事態に陥ったら、業は全部自分で背負う覚悟ですね(要約)」とオーリへの信頼を寄せてくださいました。
別の方からはウルスとラグナに「そういうとこだぞ」的なコメントをいただきました。あと、オーリの重さwにも。
ちなみに、「呪われた当事者が喜ばないだろうから」枠のもう一人であるサンについては、相手をリーナに想定しての反応となっています。彼女の善なる部分に対する、圧倒的信頼感……。
他の人間がこの呪いにかかった場合、それが主君だったら「条件を粛々と実行する」、それ以外なら「良心が許さないから」かなあ。あ、でも、レイが相手だったら、「呪われた当事者にぶん殴られたくないから」という新項目が爆誕しそうな気がしますw
11/10に行われた
イセカイフドキさんの創作小説ワンライ企画「風土記系ワンライ」
1日目の参加作です。
※ワンライとは、制限時間一時間でお題に沿った作品を書き、決められたタグで投稿するX《ついったー》上でのイベントです。
幾分寂れた町だった。目抜き通りに建つ宿屋にもかかわらず、客は彼らのほかにはいなかった。彼ら――失踪した恩師を探して旅をする少女と、その護衛の剣士と魔術師の三人組。
灯りの少ない薄暗い食堂、汚れが染み込んだ食卓で三人が食事を待っていると、奥から乱暴な足音が響いてきた。
三人の傍にやってきたのは、好戦的な目をした男だった。彼は剣士を値踏みするようにねめつけると、「裏の廃墟に住み着いたネズミを退治してくれないか」と言った。
男の後ろから宿の主人が、「私からもお願いします。あいつらのせいで、この町は滅茶苦茶になっちまった」と唇を噛む。
「ネズミ……って?」
少女が怪訝そうに眉をひそめた。
「心配しなくてもちびっ子には頼まねえよ、危ないからな。ぼろい廃墟だから魔術師の兄さんもやめておいたほうがいいだろ。剣士の兄ちゃん、あんたが頼りなんだ。俺達と一緒に、あの忌々しい奴らをやっつけてくれねえか」
報酬の少なさに眉を跳ね上げる魔術師を手で制し、剣士は静かに頷いた。あくまでも手伝いとなると、そこまで高額は望めないだろう。それに、宿代も食事代も男が払ってくれるとのことだ。
「早速で悪いが、決行は今夜だ。あとで迎えにくる」
*
約束どおり男は夜更けにやってきた。「頼んだぞ」と言う宿の主人に「任せとけお頭」と胸を張り、男は剣士を連れて宿を出ていった。
不安げに窓の外を見やった少女は月明かりの中に、剣士達と合流する数人の人影を認めた。その全員が覆面をしていることに気づいて、彼女は息を呑んだ。
「やっぱり『ネズミ』って本当のネズミじゃないんじゃ…」
傍に来た魔術師に、少女が囁く。魔術師もまた眉間に皺を寄せた。
「それどころか僕は、彼らこそが町を無茶苦茶にした賊そのものである可能性を考えている。盗人、密告屋、内通者……ネズミがどれを指すのかはわからないけど」
「助けに行かないと」
「オーリなら自分でなんとかするだろうさ」
魔術師はそう言うと、ちらりと背後を、宿の主人がいるほうを窺った。
「それよりも、ウネン、君は部屋に戻って中から戸締りをするんだ」
「モウルは?」
「僕はここで高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処するよ」
――結論から言うと、朝まで何も起こらなかった。
夜が明けて、剣士が昨晩の男とともに帰ってきた。二人とも全身埃まみれで、目元だけが薄っすらと汚れている。覆面の名残だ。
「本当にネズミ退治だったの?」
少女の声に男が顔をしかめる。
「ハァ? 俺ぁ確かにそう言っただろ?」
「なあ?」と男に問われて剣士も「ああ」と頷いた。
「この夏に野っ原の巣穴をあらかた潰せたから油断してしまってよ。まさかお役人のお屋敷跡に潜り込んでるとはな。アホほど殖えやがったところで芋だのなんだの食い荒らし始めやがってよ。お蔭で人間様は冬支度どころじゃなくなってさ」
「でも、あんな夜中に?」と魔術師。
「一度目の退治以来、昼間は出てこなくなってしまったんだよ」
「じゃあ、あの覆面は?」と、これは少女。
「毛だの乾いた糞だの吸い込みたかぁねえだろ?」
なるほど、と頷く少女の横で、魔術師がまだ腑に落ちない様子でしかめっ面をしている。
「でも、それならどうして僕にも手伝いを頼まなかったのさ? 人間相手の乱戦ならともかく、ネズミ退治なら入り組んだ場所でも僕の術はかなり役に立ったはずだ」
「あー、兄さんが風使いだってことはお頭に聞いてたけどよ、あの場所は綺麗好きには無理だと思ってよ」
「綺麗好き?」
「だって兄さん、そこの食卓の汚れ見て『うわぁ』って顔してただろ」
不覚、とばかりに唇を引き結ぶ魔術師に、宿の主人が「すみませんねえ」と頭を下げた。「いかんせん古い調度で、拭いてもとれないんですわ」
「なにせお頭のじいさんの代からあるからな」
男が得意げに胸を張る。
魔術師は「最後にもう一つだけ」と息を吐いた。
「なんで君はご主人のことを『お頭』って呼んでるの?」
「俺、ここの従業員なんだよ」
「いや、だから、なに、ここの方言?」
「『旦那』よりもなんか格好いいだろ」
肩を落とす魔術師の横で、そういうオチかー、と少女が苦笑した。
1時間で書けたのは途中の「*」までで、以降はあとから追加した分です。
使用したお題は「冬じたく」。
ワンライ初挑戦ゆえ勝手がわからず、公開にかかる手間を惜しんでX《ついったー》に直接投稿したら、1ポストごとの文字数調節にやたら苦労する羽目になりました。まさに本末転倒。普通にテキストをベタ打ちしたら、もう少したくさん書けたはず。
(投稿作業の時間はカウントしなくていいということなので、次の機会は執筆にきっちり1時間かけて、ブログに投稿→X《ついったー》に告知、で行こうと思います)
そんなわけで今作は、「通し番号や企画ハッシュタグを入れた上で、140字以内にキリよく収める」という縛りが生んだ文章なので、そのままの体裁でまとめることにしました。途中やたら空行が挿入されているのは、そういう理由です。
「ネズミを退治」じゃなくて「ネズミを始末」って書けばもっと物騒になった、ということにあとから気づきました……残念。
一夜明けて読み返した時に抱いた感想をラクガキしたので、ここに貼りつけておきますね。

あの台詞を聞いていたのがウネンだけで本当によかったね……。
今回の「風土記系ワンライ」
#ふどらい は全三回。次回は 11/18(土)なので、時間がある方は参加してみませんか。
風土記系FTが好きな人なら誰でもOK、一次創作の全年齢向け小説であればジャンル自由、なんなら風土記系FTでなくても構わないそうです。お題提供のみの参加も可能なので、皆さん、是非。
以下に主催さんのポストを貼っておきますので、詳しいことはそちらをご覧ください。
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書籍

『リケジョの法則』
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発行:マイナビ出版
電子書籍近刊

『工作研究部の推理ノート 七不思議を探せ』
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発行:パブリッシングリンク
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