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本日11/26に行われた
イセカイフドキさんの創作小説ワンライ企画「風土記系ワンライ」
3日目参加作です。
開催時間中に書けたところまで一旦投稿して、あとから少し加筆しました。どこをどう加筆したかは、掌編本文のあとに記しています。
※ワンライとは、制限時間一時間でお題に沿った作品を書き、決められたタグで投稿するX《ついったー》上でのイベントです。
伝統を重んじる人間や地位を剥奪された者達が聞けば烈火のごとく怒るであろうが、私は、帝国がこの地を征服したことを悪しからず思っている。一つは、子供達に読み書き計算といった基礎教育を施すことが義務づけられたこと。もう一つは、不安定かつ無軌道に膨張するばかりだった私塾を一箇所にまとめ、系統立った学問として成り立たせる道筋ができたことだ。
帝国以前は領主の城として使われていた建物の、古い石積みの壁を眺めながら、私は未来に思いを馳せた。おそらく後世の人間によって、今この時は歴史の新たな章の始まりと記されるであろう。歴史学者としては、その最初の一ページを、いかに有意義に……
「ちょっと、聞いてよ、ユエト!」
私の物思いは、甲高い叫び声で中断された。もう二十歳を過ぎているいい年だというのに、子供のような言動が目立つ学生、ユール・サラナンだ。教員室兼研究室に飛び込んできた彼は、先刻から黙々と文献を読み込んでいたもう一人の学生のもとへ真っ直ぐにやってくると、大きな音を立てて机の天板に手のひらを打ちつけた。
「政治学部のナントカって奴が、過去の納税方法について色々質問してきたから、ざっと教えた上で参考図書までまとめてやったのに、間違えてるんだよ!」
ちらりと学友を見やったユエト・サガフィは、視線だけで相槌を打つと、再び作業に戻る。勤勉な上に何事にも動じない、実に優秀な学生だ。
「人頭税を導入したのはアルサス領! だから隣のケネル領に吸収されるようなことになったんだって! さてはあいつ、一次資料に直接当たらないで僕の書き付けを適当に切り貼りしやがったな!」
一方、対照的にこぶしを振り回しながら口角泡を飛ばすユールだが、彼もこう見えて、とても優秀な学生なのだ……。時々信じられない思いに駆られてしまうが。
「だいたいだよ、あれこれ訊いてきたんだから、発表前に僕に『こんな感じになりました』ぐらいは報告に来たっていいと思うんだよ。んじゃ、こことこことこことここが間違ってて、ここからここまでの記述が変だ、って指摘することもできたのに!」
そこまで間違いが多いとなれば、まあ、彼の怒りはわからないでもないが……。
「そもそも質問に来た時からあいつは間違ってたんだよ。歴史ってのは、ルドスの歴史、とかヌルジの歴史、みたいにそれぞれが独立した紐みたいに存在しているわけではない、って言ったら、『それだとまとめにくいから、簡潔に頼む』って言うだろ。余計にややこしくなって混乱するよ、って忠告したら、『わかってるって。紐と紐で布地を編むようなものだろ』なんて、上手いこと言ってやった、みたいな顔していたけど、出来上がった布は穴だらけだし、それに、たった二本だけの紐を使って歴史を語れるわけがないんだよ!」
ああ、まったくもってそのとおりだ。だからこそ歴史を学ぶのは面白いのだ。いや、他の学問にしても同様だろう。我々ヒトという存在自体が、複雑怪奇極まりないのだから。一を聞いて解ったような気になるようでは、この先が思いやられる。
とは言え、いくらユールの意見が納得のいくものだとしても、学友の学びの邪魔をしてよいわけではない。私はトントンと指で机を叩いてから、依然滔々と語り続けている彼に話しかけた。
「ユール、君の考えは充分にわかったから、もうこれ以上ユエトに当たらないでやってくれ」
途端にユールがピタリと口をつぐんだ。珍しく素直に私の話を聞いてくれたのかと思いきや、しばしの沈黙を経て、なにやら思案深げに顎に手をやる。
「――いや、待てよ、織物だったら、沢山の縦糸を各々の地域に当てることができるな……?」
紐と布のたとえ話がまだ続いていたのか。
「その場合、横糸は何だ」
ユエトまでもが話題に加わってくる。しかしまあ、その気持ちはわかるとも。私も今ちょうど、横糸は何かな、と思ったところだ。
「んーと、時間の流れ……? いやでも、ちょっとそれには当たらないかな……」
私はそっと溜め息を吐き出した。当初の望みどおりユールが矛を収め、部屋の中が落ち着きを取り戻したからには、これ以上苦言を呈するわけにもいくまいて。
気を取り直した私は、愛弟子二人にあらためて正面から向き合った。今しがた考えついたばかりの譬えを、いそいそと披露する。
「ならば、組紐はどうだね」
二人の表情がパアッと明るくなるのを見て、私は満足感とともに大きく頷いた。
ふどらい企画三日目にして、ようやくワンライっぽいワンライができたような気がします。
と言っても制限時間内に完成させることはできず、最後のほうが台詞の羅列になってしまったので、あとから加筆修正していますが。
ちなみに加筆前の文章は以下のとおり。

オチに至る部分が全然足りてない。頑張ったんだけどなあ、一時間ではこれが限界でしたね……。
使用したお題は「当たらない」。
色んなバリエーションの「当たらない」を盛り込むつもりでしたが、結局3つしか入れることができませんでした。
1日目や2日目の経験を踏まえて、今回はまず台詞だけをオチまで書き出しました。
地の文は、視点が明確な一人称を選択。描写を絞ることができる代わりに、油断すると人物説明がとってつけたようになってしまいがちなところを、ユールというキャラの勢いのお蔭で、なんかこう上手いこと誤魔化せたように思えます……誤魔化せてたらいいなあ……。
このたび初めてワンライに挑戦しましたが、一時間って本当にアッという間に過ぎてしまいますね。
この短い時間にきっちりと作品に仕上げている方々には、ただひたすら尊敬するばかりです……爪の垢ちょっと分けて……。
大勢でわいわいにぎやかに時間やお題を共有して書くの、お祭りみたいでとても楽しかったです!
素敵な企画をありがとうございました!!
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11/18に行われた
イセカイフドキさんの創作小説ワンライ企画「風土記系ワンライ」
2日目に参加……しようと思ってネタをふんわり考えていたけどうっかり参加し損ねたから、一夜明けて独りでワッショイした掌編です。
※ワンライとは、制限時間一時間でお題に沿った作品を書き、決められたタグで投稿するX《ついったー》上でのイベントです。
「寒くないのか」
早朝、いつもの服装で現れた鬼術……魔術師達四名の姿を見て、少女は目を丸くした。
ここは〈水の掌〉。「掌」という言葉は、神へ祈りを捧げる人々の集団そのものを指すこともあるが、この場所は会所、いわゆる礼拝堂である。北の帝国からわざわざ祈術を学びにやってきた四人の留学生達は、寝泊りしている町長の別宅から、こうやってこれから毎日、〈水の掌〉を始めとする各掌をまわって祈り手の話を聞いたり手伝いをしたりするということだった。少女――サヴァはまだ十三歳だが、帝国出身の父を持ち彼らの言葉がわかることから、その指導役に任命されたというわけだ。
今朝はこの秋一番の冷え込みで、サヴァは寝床を出るのに、椰子の実を叩き割るほどの勢いを必要とした。夏場は日よけに使った方布を首に巻き、上着の下に胴衣も着込んできたというのに、色白でひょろりとした日陰の豆の芽のようなこの連中は、上着も無しで平然とした顔で立っている。
「大丈夫!」と一番体格のましな茶髪緑眼が胸を張った。続けて帝国語で『ちょっと寒いかなーとは思うけど、十一月でこれぐらいだったら、冬も楽勝っすよ、ねえ、サヴァちゃん』と笑う。
「サヴァ『さん』」
その横から砂色の髪の青年が、やや低い声で訂正を入れる。彼――ラーノは先遣隊として以前一箇月ほどこの町に滞在していたため、サヴァは彼のことを比較的よく知っているが、こんな声を聞いたのは初めてで少し驚いた。
「言葉遣いに気をつけるよう、言ったでしょう」
ラーノは同じ言葉を帝国語でも繰り返す。クナーン語の時よりも丁寧さが心持ちそぎ落とされた言い回しを聞き、サヴァはもう一度目をしばたたかせた。
『そう言うけど、こんな可愛らしい子相手に、そんな堅苦しいのってさぁ』
『君は、教授相手にもそういう話し方をするのかい?』
『や、まさか』
『教えを乞う相手、というのは同じだよ』
『……わかったよ、団長殿』
『あと、できる範囲でいいから、クナーン語を使うよう心がけよう』
はーい、とぞんざいな*返事をした茶髪が、ラーノが背を向けた途端にこれ見よがしに肩をすくめている。なんだあいつは、とサヴァは思わず眉間に皺を寄せた。
「今朝は急に冷え込んだな、とは思いますが、気温に対して風がぬるいですから、ごれぐらいなら大丈夫ですね。日が高くなれば、温かくなるでしょうし」
ラーノが律儀にも先ほどの気候の話題を引き取った。
「暑くなったら、脱げばいいんだ」
「それはそうですね」
再会して四日、ようやく見られたラーノの笑顔に、サヴァもつられて口角を上げる。
「夏と違って雲が出ることも多いから、そういう日は昼間になってもあまり温かくはならないぞ」
「冬場に雨が降るんですよね」
「ラーノが来る前の日もちょっと降ったぞ」
彼は、祈術のこと以外に、こういう日常的で些細な話を聞くのも好きなのだ。サヴァはすこし得意な気分で、右手を空に差し伸べると、意識を指の先から空へと広げた。大いなる恵みへの感謝と、大地に満ちる命への思いとを、いにしえのことばで縒り合わせて風に放つ。
サヴァが目をあけると、ラーノが眩しいものでも見たかのように目を細めていた。他の三人の魔術師も、不思議そうな表情で辺りをきょろきょろと見まわしている。
「午後にでもまた雨が通りそうだ」
そうサヴァが言った途端、ラーノが目の色を変えて身を乗り出してきた。三箇月も経ったのに、こういうところは全然変わらない。
「ちょっと待ってください! 今の祝詞はどういうものですか? 記録していいですか?」
「帳面をつけるなら、祈りの部屋の机を使ったらいい。でも、そんな大層なものじゃないぞ。雲がどこかにいるかな、と探っただけだ」
「雲……つまり、水の気配ですか」
「うん。それで、海のほう、そう遠くないところに気配がしたから」
「なるほど」
サヴァの言葉を受けて、ラーノが背後を見やった。掌の前に開けた水の広場を、坂を下った先、紺碧の海を。
「そうか。だから風がぬるいんですね……」
と、そこでさっきの茶髪が、得意げな顔でラーノのあとを受けて口を開いた。
「帝都なら、風、木が枯れるます」
「風で木が!?」
サヴァは思わず右方を振り向いた。入り組んだ小路の遠く、家々の屋根の向こうにあるナツメヤシの並木に目をやる。
帝国は森と鉄の国と聞いているが、風で枯れてしまうほどその木々は弱いのか。ああ、でも雨がよく降るというから、胡瓜のように一年で伸びて茂るのだろうか。いやそれとも、そもそもあまり風が吹かないとか……。
「木は枯れません」
「え?」
目を戻せば、ラーノがなにやら口元に力が入った顔をしていた。
「帝国には冬に葉が落ちる木があるんです。春にまた葉の芽が出るまでは、そういった木々は枝だけとなって枯れ木のように見えるため、秋が深まって吹く冷たい風を『木枯らし』と呼ぶんです」
『ほら、やっぱりサヴァちゃん可愛いって! な! って、いたいたいたいたい』
なれなれしくラーノの脇腹を肘で突っついた茶髪が、そのまま腕をねじり上げられて悲鳴を上げる。
「サヴァ『さん』だ!」
『すまんて、ラーノ、冗談だって!』
やはりこれは面倒な仕事になりそうだ、とサヴァはそっと溜め息を吐き出した。
途中に入り込む「*」マークまでが一時間で書けたところです。続きを書く際も、その部分には一切手を加えていません。
使用したお題は「木枯らし」。
映画に出かけて以降、X《ついったー》を全然開いてなかったのが悪かったんですよね。気がついた時には開催時間を過ぎてしまっていたので、もうこのままタイムラインを見ずに寝て、朝に一人後夜祭決め込もう、と相成りました。ていうか、朝でも後夜祭って言っていいのだろうか。
そんなわけで、全三回の #ふどらい 、11/26の次回がラストです。
次こそは、きちんと参加したいと思います……。
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11/10に行われた
イセカイフドキさんの創作小説ワンライ企画「風土記系ワンライ」
1日目の参加作です。
※ワンライとは、制限時間一時間でお題に沿った作品を書き、決められたタグで投稿するX《ついったー》上でのイベントです。
幾分寂れた町だった。目抜き通りに建つ宿屋にもかかわらず、客は彼らのほかにはいなかった。彼ら――失踪した恩師を探して旅をする少女と、その護衛の剣士と魔術師の三人組。
灯りの少ない薄暗い食堂、汚れが染み込んだ食卓で三人が食事を待っていると、奥から乱暴な足音が響いてきた。
三人の傍にやってきたのは、好戦的な目をした男だった。彼は剣士を値踏みするようにねめつけると、「裏の廃墟に住み着いたネズミを退治してくれないか」と言った。
男の後ろから宿の主人が、「私からもお願いします。あいつらのせいで、この町は滅茶苦茶になっちまった」と唇を噛む。
「ネズミ……って?」
少女が怪訝そうに眉をひそめた。
「心配しなくてもちびっ子には頼まねえよ、危ないからな。ぼろい廃墟だから魔術師の兄さんもやめておいたほうがいいだろ。剣士の兄ちゃん、あんたが頼りなんだ。俺達と一緒に、あの忌々しい奴らをやっつけてくれねえか」
報酬の少なさに眉を跳ね上げる魔術師を手で制し、剣士は静かに頷いた。あくまでも手伝いとなると、そこまで高額は望めないだろう。それに、宿代も食事代も男が払ってくれるとのことだ。
「早速で悪いが、決行は今夜だ。あとで迎えにくる」
*
約束どおり男は夜更けにやってきた。「頼んだぞ」と言う宿の主人に「任せとけお頭」と胸を張り、男は剣士を連れて宿を出ていった。
不安げに窓の外を見やった少女は月明かりの中に、剣士達と合流する数人の人影を認めた。その全員が覆面をしていることに気づいて、彼女は息を呑んだ。
「やっぱり『ネズミ』って本当のネズミじゃないんじゃ…」
傍に来た魔術師に、少女が囁く。魔術師もまた眉間に皺を寄せた。
「それどころか僕は、彼らこそが町を無茶苦茶にした賊そのものである可能性を考えている。盗人、密告屋、内通者……ネズミがどれを指すのかはわからないけど」
「助けに行かないと」
「オーリなら自分でなんとかするだろうさ」
魔術師はそう言うと、ちらりと背後を、宿の主人がいるほうを窺った。
「それよりも、ウネン、君は部屋に戻って中から戸締りをするんだ」
「モウルは?」
「僕はここで高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処するよ」
――結論から言うと、朝まで何も起こらなかった。
夜が明けて、剣士が昨晩の男とともに帰ってきた。二人とも全身埃まみれで、目元だけが薄っすらと汚れている。覆面の名残だ。
「本当にネズミ退治だったの?」
少女の声に男が顔をしかめる。
「ハァ? 俺ぁ確かにそう言っただろ?」
「なあ?」と男に問われて剣士も「ああ」と頷いた。
「この夏に野っ原の巣穴をあらかた潰せたから油断してしまってよ。まさかお役人のお屋敷跡に潜り込んでるとはな。アホほど殖えやがったところで芋だのなんだの食い荒らし始めやがってよ。お蔭で人間様は冬支度どころじゃなくなってさ」
「でも、あんな夜中に?」と魔術師。
「一度目の退治以来、昼間は出てこなくなってしまったんだよ」
「じゃあ、あの覆面は?」と、これは少女。
「毛だの乾いた糞だの吸い込みたかぁねえだろ?」
なるほど、と頷く少女の横で、魔術師がまだ腑に落ちない様子でしかめっ面をしている。
「でも、それならどうして僕にも手伝いを頼まなかったのさ? 人間相手の乱戦ならともかく、ネズミ退治なら入り組んだ場所でも僕の術はかなり役に立ったはずだ」
「あー、兄さんが風使いだってことはお頭に聞いてたけどよ、あの場所は綺麗好きには無理だと思ってよ」
「綺麗好き?」
「だって兄さん、そこの食卓の汚れ見て『うわぁ』って顔してただろ」
不覚、とばかりに唇を引き結ぶ魔術師に、宿の主人が「すみませんねえ」と頭を下げた。「いかんせん古い調度で、拭いてもとれないんですわ」
「なにせお頭のじいさんの代からあるからな」
男が得意げに胸を張る。
魔術師は「最後にもう一つだけ」と息を吐いた。
「なんで君はご主人のことを『お頭』って呼んでるの?」
「俺、ここの従業員なんだよ」
「いや、だから、なに、ここの方言?」
「『旦那』よりもなんか格好いいだろ」
肩を落とす魔術師の横で、そういうオチかー、と少女が苦笑した。
1時間で書けたのは途中の「*」までで、以降はあとから追加した分です。
使用したお題は「冬じたく」。
ワンライ初挑戦ゆえ勝手がわからず、公開にかかる手間を惜しんでX《ついったー》に直接投稿したら、1ポストごとの文字数調節にやたら苦労する羽目になりました。まさに本末転倒。普通にテキストをベタ打ちしたら、もう少したくさん書けたはず。
(投稿作業の時間はカウントしなくていいということなので、次の機会は執筆にきっちり1時間かけて、ブログに投稿→X《ついったー》に告知、で行こうと思います)
そんなわけで今作は、「通し番号や企画ハッシュタグを入れた上で、140字以内にキリよく収める」という縛りが生んだ文章なので、そのままの体裁でまとめることにしました。途中やたら空行が挿入されているのは、そういう理由です。
「ネズミを退治」じゃなくて「ネズミを始末」って書けばもっと物騒になった、ということにあとから気づきました……残念。
一夜明けて読み返した時に抱いた感想をラクガキしたので、ここに貼りつけておきますね。

あの台詞を聞いていたのがウネンだけで本当によかったね……。
今回の「風土記系ワンライ」
#ふどらい は全三回。次回は 11/18(土)なので、時間がある方は参加してみませんか。
風土記系FTが好きな人なら誰でもOK、一次創作の全年齢向け小説であればジャンル自由、なんなら風土記系FTでなくても構わないそうです。お題提供のみの参加も可能なので、皆さん、是非。
以下に主催さんのポストを貼っておきますので、詳しいことはそちらをご覧ください。
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◆或いは諦めにも似た
「私がなぜ怒っているのかわかるか?」
ナイフの柄を握る指――関節が白く浮き上がった華奢な指――を、血濡れた手が鷲掴みにする。
「教えただろう。急所は、ここじゃない。もう少し、上だ」
灰色の瞳にのみ僅かに苦痛を浮かばせ、師が微笑んだ。
「いつまでたっても、お前は詰めが甘いな」
(137文字) ◆或いは糾える縄のように
「いいえ、これでいいんです」
彼のただ一人の弟子は、今にも震えそうになる歯の根に力を込めながら、囁いた。
「もう少しだけ、あなたと話がしたかったから」
「なんだ」
「先生は……、私がなぜ怒っているのかわかりますか?」
師の薄い唇が、綺麗な弧を描いた。
「分かりたくもないね」
(133文字) ◆#絵文
六年ぶりに会った幼馴染みは、腹立たしいほどに昔のままだった。だが、安心しきった表情で眠る彼女を見つめるうち、彼の心もまたあの頃に戻ってゆく。一門同士の確執も紛紜も何も知らなかった少年時代に。
どうやら自分は、はかりごとというものには向いていないらしい。彼はそっと息をついた。
(138文字)
限られた文字数で、無理の無いように雰囲気壊さないように情報密度を上げていくのって、楽しいですね。パズルをしているみたいです。
今まで絵文タグ(このタグがあるイラストには、自由に文章をつけてもよい)は見る専だったのですが、
コマさんのイラストがあまりにもツボだったので、発作的にものしてしまいました。案の定推敲が足りなくて、ブログ転載にあたって二文字ほど修正してしまいましたが。
彼女の幸せそうな寝顔も、その寝顔に魂吸い取られてしまってるような彼の眼差しも最高です。個人的に、彼の右手首にも大層萌えました(揺るぎのない手フェチ)
コマさん、眼福をありがとうございました!
一昨日にいただいたイラストを拝見していて、ロイ先生が抱く自分の能力に対する並々ならぬ自負というか満ち溢れる自信といったものを、しみじみと噛みしめていたところ、ふっ、と、幾つかの情景が浮かび上がってきましてな。我慢できずに第十一話三節の冒頭に、ちょっとだけ書き足してしまいました。おかげですっかり寝不足です。はははは。
一番書きたかった部分には本編のネタバレがむっちゃ含まれているので、その箇所はサイト等で確認していただくとして、当たり障りのない過去話の部分を、SSと言い張って以下に抜き出しておきますね。(大いなるステマ)(そろそろステマの意味間違えていると思う)
ロイ先生16歳の冬のエピソードです。
ロイは、今でも、師が研究室の合鍵を渡してくれた時のことを、昨日の出来事のように思い出すことができる。
毎日、放課後になると、ロイは他のことには目もくれずに、ザラシュの研究室へと通っていた。宮廷魔術師長として宮城の一角に居室を持つザラシュではあったが、周囲の雑音を嫌った彼は、以前に使用していた家を研究室として残し、公務の合間をぬってはそこで研究に打ち込んでいた。ロイは、その研究室でザラシュの手伝いをしながら、学校では望むべくもない、より高度で実践的な指導を受けていたのだ。
二十年前のその日、いつもどおりに研究室のあるザラシュの旧邸へ向かったロイは、固く閉ざされた門に出迎えられた。
城の警護や、魔術を使った他都市への通信など、宮廷魔術師の仕事は多岐に亘る上に煩雑だ。その長ともなれば、予期せぬ仕事に時間を取られることも少なくない。ロイの弟子入り以来、ザラシュは極力夕方の決まった時間に研究室を開けるようにしてくれていたが、それでもやはり、ザラシュの到着が遅れることは、ままあった。そして、そんな時は必ず、留守を預かる使用人がロイを門番小屋で待たせてくれたものだった。
しかし、その日はどうも勝手が違っていた。門の向こうに見える小屋にも、庭にも、人の気配は一切無く、ロイは途方に暮れながら門の脇に立ち尽くした。
お屋敷の並ぶ閑静な街角に、木枯らしが吹きすさぶ。ロイが、かじかむ両手を互いに擦りあわせていると、向こうの角から姿を現した一台の二輪馬車が、急いた様子でこちらに向かってきて、急制動でロイの前に停車した。
「遅れてしまってすまない。寒かっただろう、すぐに中に入って火を起こそう」
謝罪の言葉を口にするザラシュに対し、ロイは静かに首を振った。
「大丈夫です」
「大丈夫なわけがあるか。唇の色が紫色になっているぞ」
いつもの使用人が身内の不幸とやらで暇をとったため、今この家には誰もいないのだ、と、ザラシュは申し訳なさそうにロイに言った。
「確かに『規範』には、自分のために術を使うな、とあるが、身体を壊してしまっては、人助けのしようもないだろう?」
暖炉の火に加えて、絶妙に出力を調整された魔術の炎が、冷え切ったロイの身体をゆっくりと温めてくれる。ロイがようやく人心地ついた頃、ザラシュが少しわざとらしい調子で咳払いを一つした。
「これを君に渡しておこうかな」
そう言ってザラシュが差し出したのは、飾り気のない頑丈そうな鍵だった。
「これは……?」
「この家の合鍵だよ」
驚きに目を丸くするロイの目の前、ザラシュが穏やかな笑みを浮かべる。
「君なら、いつでも自由に出入りしてくれて構わんよ。私が留守の時でも遠慮なく」
「いや、しかし、今日のことは、私がしっかりと防寒具を用意してさえいれば……」
躊躇うロイに、ザラシュは悪戯っぽい表情を作ってみせた。
「なんにせよ、私を待つ時間が勿体ないだろう?」
主人が不在の家で勝手にするのが気が引けるというのなら、書斎の本を読んで待っておればいいだろう。ザラシュにそう言われてしまえば、ロイに断わる理由は何も無かった。
「でも、宜しいのですか?」
「勿論だとも」
ザラシュは破願すると、ロイの手に鍵を握らせた。
「これは、私と君との絆だよ。大切にしておくれ――」
こんなに控えめでカワイイ(?)少年が、あーんな大人になるわけですなw
サイトや小説家になろうの他、
BCCKSの電子書籍版も修正しておきました。
実は、先日の製本作業に際して、幾つかの節に設定していたアバンタイトルを撤廃、本文を再構成しておりましてね。以前ダウンロードなさった方も、是非この機会に、新しいファイルと差し替えてくだされば幸いです。
「トリュフなんて自分で作れるとは思わなかったなー」
製菓道具を洗いながら、彼女がしみじみと呟いた。
その横では、彼が、洗い終えたヘラやボウルを水切り籠から取り出しては丁寧に布巾で拭いていく。
「でも、作業自体は何も難しいことなかったろ?」
「難しいか否か、と同じぐらい、面倒か否か、ってのも重要なファクタでね。私一人じゃ、とてもこんな凝ったチョコは作れなかったよ」
苦笑を浮かべる彼女に、彼もまた苦笑で応えた。
「慣れてしまえば、たいした苦にはならないさ」
普段自炊はしなくとも、各種イベントごとに菓子は作る、という彼だから言える、余裕の台詞である。
彼女は深い溜め息をつくと、洗い物を終えタオルで手を拭いた。
「それにしても、チョコをあげる相手に、作るのを手伝ってもらうなんてね」
彼女の言葉が終わりきらないうちに、彼が芝居がかった調子で咳払いをした。
「トドメを刺すようで悪いけど、実は僕もチョコを作ったんだ。君に」
「ええっ」
驚く彼女に、彼はすこぶる得意そうに口角を上げる。
「僕の本気を見せてあげよう、って言っただろ?」
「え? それって、私のチョコを手伝ってくれる、という意味じゃなかったんだ?」
想像だにしていなかった反応に、彼は先ずぽかんと口をあけ、そして次に、そっと眉をひそめた。
「手作りを振る舞ってくれる、って言ってくれた人間相手に、そんな失礼なこと言うわけないだろ」
「いやまあ、事実は事実だから、失礼とは思わなかったけど。実際のところ、私一人で作ったら、市販のチョコを溶かして、何か混ぜ物して、固めて、終わり、ってなっただろうし」
「混ぜ物言うな」
反射的にツッコミを入れてから、彼は、やれやれ、と肩を落とした。
「どうして、バレンタイン・デートが、手作りチョコ教室に変わってしまったんだろう、って不思議に思ってたんだけど、そういうことか……」
ローテーブルに二組のコーヒーカップが並べられる。
真ん中には、トリュフチョコレートの盛られた皿。そしてその横には、まるでケーキ屋で買ってきたかのような、美味しそうなガトーショコラが、鎮座ましましていた。
「こうやって並べてみると、釣り合わないこと甚だしいな」
何度目か知らぬ溜め息が、彼女の口から漏れる。
「そう?」
「せめて、一から十まで自分で作っていれば、少しは胸も張れるんだろうけど」
君の手をあれだけ煩わせておいて、チョコの交換も何もあったもんじゃない。そう力無く笑う彼女に向かって、彼は涼しい顔で「両手を出して」と声をかけた。
「こう?」
不思議そうな顔をしつつも、彼女が素直に両手を前に突き出せば、彼は更なる指示を繰り出していく。
「いや、そこまで手を伸ばさなくてもいいから。そう、それぐらいでいい。互いの手をもう少し近づけて、そう、それで、手のひらを上に向けて」
彼女が胸の前に差し出した両手の上に、彼は、トリュフの皿をそうっと乗せた。
彼女が、目をしばたたかせる。
彼は、トリュフを捧げ持つ体勢となった彼女をじっと見つめた。途中で一度、ちらりとテーブルの上のガトーショコラに目をやったのち、再び彼女をねめまわし……、それから最後に、極上の笑みを浮かべた。
「これで、山ほどお釣りがくる」
「え?」
「じゃあ、僕から先に、いただきます、っと」
そうして、チョコよりも甘いキスが、彼女の唇に落とされた。
なんとかバレンタイン当日に間に合いました。バレンタインネタSS第二弾、です。
書籍化された「
うつしゆめ」から、「彼」と「彼女」に登場してもらいました。
最初は、「魔法の呪文……これを冷蔵庫で一時間寝かしたものが、こちらになります」ネタにしようと思っていたんですが、書いているうちに、なんだか収拾がつかなくなってしまいましてね……。
何はともあれ、ハッピーバレンタイン!
実は、オフラインが少々切羽詰っておりましてね……。春になれば少しは落ち着いて物書きできるかな……。
とりあえず、バレンタインネタを幾つか思いついたので、ざっくり記しておくことにしました。「その一」とありますが、「その二」が書けるかどうかは神の味噌汁。(脚本形式ならすぐに出せるんですがね……)
まずは、先月配信開始した「
呪いの解き方教えます」の二人。作中時間と微妙にバッティングしているような気がしますが、そこはそれ、名探偵コナン時空みたいな感じで!
珊慈がローテーブルの上にコーヒーの入ったマグカップを並べるなり、理奈が綺麗にラッピングされた小箱を勢いよく差し出してきた。
「はい、バレンタインのチョコ、どうぞ!」
向日葵のような満面の笑みが彼女らしいと言えば彼女らしいのだが、もう少し勿体ぶってみたりとか恥じらってみたりとか、そういう駆け引き的演出は無いのだろうか。無いな、と、珊慈は即座に胸の内で呟いた。そもそも、向日葵好きと向日葵の組み合わせなのだから、そこに何も不都合はない。
「ありがとう」
珊慈が心からの笑顔を向けると、理奈の顔が一気に赤くなった。これも実に彼女らしい。
小箱には、珊慈も良く知っている有名洋菓子店の名前があった。凝った包装はまるで宝箱のようで、これを選んだ時の理奈の表情が簡単に想像できて、珊慈は思わず頬を緩ませた。
「あけてみないの?」
と、テーブルの端に置かれたチョコの箱を指さして、理奈が問うてくる。
「あけてほしいの?」
質問に質問で返してみれば、理奈は、もじもじしながら更に質問を打ち返してきた。
「どんなチョコか気にならない?」
「……あけてほしいんだね」
「アッ、いえ、そういうわけではない、わけでもない、ような、何と言うか、ええと、その」
理奈が、激しく動揺している。どうやら図星を差されたようだ。
ホント、見飽きないなあ、と、心の中でだけ思いっきりニヤニヤ笑いながら、珊慈は淡々と小箱の包装を解いた。
箱の中には、小さなマスコットみたいなチョコが、大小合わせて四つ入っていた。中に入っていた栞によると、童話をモチーフに造形したものらしい。
「へえ。可愛いチョコだねー」
理奈が「でしょ、でしょ!」と目を輝かせるのを見て、珊慈は思わず口元に笑みを浮かべる。
高校の時に、絵にかいたような義理チョコ――お徳用大袋入りチョコの一つ――を理奈から貰ったことはあったが、これは正真正銘の本命チョコだ。ゆっくり大切に味わわせてもらおう、と思って、珊慈が箱に蓋をすると、またもや理奈が、おずおずとチョコの箱を指さしてきた。
「食べないの?」
その瞬間、珊慈の脳裏に閃くものがあった。
「……食べたいんだね」
珊慈の問いかけに対し、理奈は面白いほど勢いよく首を横にぶんぶんと振る。
「いやいやいや、流石の私も、そこまで厚かましくは……!」
「本当に? 味見、したくない?」
ちらりと箱の蓋をあけてみせるだけで、理奈はいとも簡単に陥落した。
「あー、えーと、そのー、ええ、まあ、どんな味か、ちょっとは気になるかな……」
「じゃあ、一つどうぞ」
「ありがとー! って、ええっ、ちょっと待って、ナニその『あーん』って!」
「チョコのお礼に食べさせてあげるよ。はい、口あけて」
「いや、それは、流石に恥ずかしすぎるというか!」
「じゃあ、ポッキーゲーム的に」
「イキナリ至近距離!」
珊慈が淹れたコーヒーは、結局一度も口をつけられないまま冷め切ってしまうことになったのだった。
そういえば、先日、リア友に「こんな、リア充爆発しろみたいなシーン、どんな顔で書いてんの?」と訊かれて、「真顔でな!」とドヤ顔で答えましたん。
物語と、それを書いている自分を、しっかり切り離してこそ、ですね。と、ここでは真面目に言っておきます。
小ネタで恐縮ですが、昨晩呟いたハロウィンネタをまとめておきますねー。
ヒロインが「トリック以下略」とネタをふって、野郎の反応を見る、というパターンに揃えようと思ったんですが、どうしても一つだけ上手くいかなくて、諦めました。恐るべし、どつき漫才コンビ……。
「小説家になろう」の、
招夏さん、
まあぷるさんの活動報告から、バトンを拾ってまいりました。
その名も……
キザな口説きセリフ【バトン】------ココカラ------
【注意】
これは常人には精神ダメージがかなり大きいバトンです。見る時は五回ほど深呼吸をし、覚悟を決めてから見てください。
以下のキーワードを絡める(もしくは連想させる)口説きセリフを自分で考え、悶えながら回答して下さい。
答える生け贄、もとい勇気ある人々にこの言葉を送ります。
『恥を捨てろ、考えるな!』
※ リアルで言ったら変人扱いされるようなキザなセリフを特に推奨
■キーワード1 『雪』
「君は、天空から地上に降りた、純白の天使。まだ誰も踏み入っていない一面の銀世界を、僕に乱させておくれ」
■キーワード2 『月』
「昔から言うじゃないか。月の光が人を狂わせる、と。今夜の僕は、君に狂わされる哀れな狼さ」
■キーワード3 『花』
「花がどうして美しく咲くか知ってるかい? 甘い香りも、あでやかな姿も、全て虫を誘うためのもの。ならば、こうして僕が君に吸い寄せられるのは、真理ってわけだ」
■キーワード4 『鳥』
「可愛い小鳥さん。僕の腕の中で、君はどんな歌を歌ってくれるんだい?」
■キーワード5 『風』
「困ったな。君の髪を乱す春風にさえ、僕は嫉妬してしまいそうだ」
■キーワード6 『無』
「空っぽだった僕の心を満たしてくれたのは、君なんだよ。君がいなければ、僕なんか存在しないも同然だ」
■キーワード7 『光』
「太陽も、月も、眩くきらめく貴石さえも、君の笑顔にはかなわない」
■キーワード8 『水』
「砂漠を行く旅人の前に現れた、緑なすオアシスよ。どうか乾ききった僕を、潤してくれないか」
■キーワード9 『火』
「ねえ、分かってる? 君が、僕に火をつけたんだ。その責任をとってもらうよ」
■キーワード10 『時』
「君さえいれば、時の流れすら僕の敵ではない。幾度砂時計を反されようと、僕は君を愛し続けるから」
■このバトンを回す生け贄五人
ああっ、バトンが手からすっぽ抜けて坂道を転がっていってしまったー!
(どうぞご自由にお持ちくださいv)
------ココマデ------
オマケ。
「ゴメン、降参。もう勘弁。これ以上は無理。死ぬ。歯が浮いて死ぬから」
必死で懇願するも、彼は涼しげな笑みを浮かべるのみ。
「あれ? まだ十個しか言ってないよ」
「十個もよくスラスラと出てくるね……」
呆れ顔を作ろうにも、この、すっかり熱を持った頬が邪魔で邪魔で、私はひたすら下を向くしかない。
発端は、夕食後に何となくつけたテレビでやってた恋愛ドラマ。タイトルに聞き覚えがあるということは、たぶん世間では大ヒット中なんだろう。ヒロインの相手役が、これでもかと詩的な台詞を吐くのが面白くて、ついついはしゃいでしまったところ、彼が、あの「天使の微笑み」を浮かべて言ったのだ。「そんなにキザな台詞が好きなら、好きなだけ聞かせてあげようか」と。
無軌道に口説くのもつまらないから何かお題をくれ、と言うので、遊び半分に単語を言ってみたら、このとおり。同じ研究分野に身を置く者として、彼の優秀さには常々感服していたが、まさかこんな方面でも死角が無いとは、本当に恐れ入る。
「本音を言うと、口頭でだけじゃなくて、実技も加えたかったところなんだけど」
……後ろから抱きすくめて耳元で囁くのは、実技のうちに入らないんだろうか。
「ていうか、言い続けた僕も僕だけど、平然と聞き続けた君も、大概だよね」
どう反論しても、その先に待つ未来は同じような気がする。むう、とだけ唸れば、彼が悪戯っぽく笑った。
「じゃあ、今度は、十八禁バージョンでいこうかな」
「ええっ?」
「大丈夫。実技は最後にとっておくから。……ええと、最初は雪だったね。『雪原のごときその白い肌を……』」
< 了 >
サイト掲載のあの物語から、あの二人に頑張ってもらいました。(どの物語のどの二人かを明らかにするだけで本編のネタバレになってしまう、あの二人です)
……そう、キャラの台詞だと思えば、考えるのも全然恥ずかしくない!
もう一人、こちらは素でキザな台詞が得意技なキャラがおりますが……、
あいつでシミュレートしかけたところ、いきなりエロスな世界が展開してしまったので、諦めました……。隊長ェ……orz
というわけで、バトン、楽しませていただきました! ありがとうございましたv
「いやあ、隊長と副隊長が、まあ、なんつーか、仲直り? したのは、俺らにとっても、とってもありがたいわけなんだけどさ……」
奥歯に物が挟まりまくった口調で、ガーランはがしがしと頭を掻き毟った。
ここは、ルドス警備隊詰所の二階、隊長の執務室。ノックの音からして気の進まない様子で、ガーランはエセルの机の前に立った。他愛もない世間話でお茶を濁すこと寸刻、「だから何の用だ」とのエセルの容赦ない問いかけに、半分やけっぱちで本題に突入したところだった。
「……ありがたいわけなんだけど、今度はさ、この部屋に用があってやってきたとして、その時にだな、アンタらが……、いや、なんつーか、ほら、うっかりアンタらの邪魔をしてしまわないか、とかさ、色々と悩みは尽きないわけよ」
なんで俺が隊長にこんなこと言わなければならないんだ、と、理不尽な思いを噛み締めるガーランの脳裏に、ついさっき談話室で同僚達と交わされた会話が甦ってきた。
「確かに、これで、あの二人の顔色をびくびくしながら窺わなくっても良くなったわけだけどよ」
「今度は逆の意味で、見ていられない、って感じがしないか?」
今更何を言ってるんだ、両片思いが両思いに変わっただけで、以前と全く同じじゃねえか、と心の中で溜め息をつきながら、ガーランは反論を試みた。
「そうか? 隊長はともかく、あの副隊長が、人前でベタベタするようには思えねえが」
「まあ、そりゃそうなんだけどさ、でも、執務室に用があっても、やっぱさ、行くの、躊躇うよな」
「だって、二人きりだろ、あの部屋で」
ケツの青いガキじゃあるまいし、意識しすぎなんだよお前ら。そう言いたいところを、ガーランはぐっとこらえた。
「だーかーらー、彼女に限って、ないない、ないって」
「でも、隊長のほうは間違いなく調子に乗るだろ?」
そこで思わず言葉に詰まるガーランを、同僚達がすがるような目で取り囲んだ。
「だからさ、頼むよ」
「……え?」
「なあ、ガーラン。あの二人と長時間一緒にいて平然としてられるのは、俺達の中じゃお前ぐらいなもんだ。だから……」
「――隊長にもう一人ぐらい補佐をつけて、そいつもここに詰めてりゃ、ちょっとは密閉感てか閉塞感みたいなものが薄れるかなー、と、だな……」
どう考えても無理がありすぎる提案を、ガーランはなんとか言いきった。あとは野となれ山となれ。伝令の仕事はここまでだ、と、天井を仰ぐ。
ふむ、と考え込むそぶりを見せたエセルは、鷹揚な態度で椅子に背を預けた。
「そうは言うが、ガーラン」
と、にやりと底意地の悪そうな笑みを浮かべながら、「すると今度は、三人の邪魔をするかもしれない、と、悩むことになるのではないか?」
その瞬間、ガーランの思考は真っ白になった。顔面にこぶしを喰らったかのように、目の奥で火花が弾ける。
エセルが、にやにや笑いを収めて、怪訝そうに眉をひそめた。
「どうした、ガーラン、お前らしくない。うぶな生娘でもあるまいし、何を赤くなっている」
と、背後の扉にノックの音が響いた。
鈴の音もかくやな「入ります」の声を聞き、ガーランが我に返る。
「そ、そうだな、うん、も、もう一度、あいつらの話を、聞いてくるわ」
扉の開く音に続けて、軽やかな靴音。
「ガーラン、ここにいたのですか」
「お、おうよ」
副隊長に背を向けたまま、ガーランはじりじりと扉のほうへとあとずさる。そうして、彼女の傍らを通り過ぎるや否や、脱兎のごとく執務室を飛び出していったのだった……。
アホなネタを思いついてしまって、我慢できずに書いてしまいました。すみませんすみません。
大体、「黒の黄昏」第三部始まってすぐのあたりです。
書籍

『リケジョの法則』
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発行:マイナビ出版
電子書籍近刊

『工作研究部の推理ノート 七不思議を探せ』
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発行:パブリッシングリンク
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